「世界終末戦争」バルガス=リョサ/新潮社

世界終末戦争

世界終末戦争

★★★★☆
19世紀末のブラジルで実際にあったカヌードスの反乱を題材にとった小説。コンセリェイロ(助言者)という一人の宗教者を中心にして様々な過去を持つ人間が集まり、宗教的コミュニティを作り上げて、国家に反抗するまでになる。そのロジックは法律婚姻制度は神の教えに背いているだとか、新しい課税制度は庶民を抑圧するのものだとか、そういったものである。これらを拒否し、神の教えに沿った古きよき信仰のもとで生活するという(そこには彼らの妄想が混じっているが)「理想」は、貧しい民衆に訴えかけるものがあった。そして小説中での主要な登場人物となるマリア・クアドラード、パジェウ、ジョアン・アバージといった贖えない過去を抱えた人々を包みこみ、救いの道を指し示したのがコンセリェイロだった。彼らの中では間違い無く信仰が貧しさから救ってくれる(た)のである。しかし、それを国家(ブラジル共和国)や、教会は理解出来ない。既存の権力を拒否する、反体制者としか捉えられない。この物語は自らとは異なる存在(=他者)との戦いを描いている。
作中ではどうしても、カヌードス側の登場人物に肩入れしてしまい、共和国=軍隊を権力と抑圧の装置であると感じがちだが、それはおあいこである。しかし決定的に異なるのは、カヌードス側は「個人」の集合であり、システムの一部としての人間ではないということだ。ここが完全な境界線になっている。理解し得ない他者とどのように付き合うか、カヌードスの反乱のように、灰燼に帰するまで破壊し尽くし、綺麗サッパリ消し去ってしまうか、それとも異なることを許容して共存をしていくのか。
単純な話をすれば、仲間を集めて理想郷を目指すというある意味ではRPG的な感覚もあり、大変面白い。カヌードスの中心人物になっていく人々は最初から信仰篤き者ではなかった。ではいかにして目覚めたのか、そしてどうやって関わっていったのかというのを様々に切り替わる視点から描いていくバルガス=リョサの手腕はスバラシイの一言。