「心臓を貫かれて」マイケル・ギルモア/文藝春秋

心臓を貫かれて 上 (文春文庫)

心臓を貫かれて 上 (文春文庫)

心臓を貫かれて 下 (文春文庫)

心臓を貫かれて 下 (文春文庫)

★★★★
死刑廃止運動に一石を投じた死刑囚ゲイリー・ギルモアとその一家の物語を描いたノン・フィクション。確実に言えることは、死刑を宣告される側も、願う側にも、それぞれに事情があるということは応報感情を優先させて考えていては、とてもではないが理解出来ない。ゲイリーが死刑を宣告され、その執行を望むようになるまでには、血の呪いから家庭環境、なし崩し的に打ちのめされてついには深みから抜け出せなくなったその精神の変遷の歴史というものがある。ゲイリーは確かに直情径行なところがあったが、しかし、その知性はずば抜けており、人を引きつける魅力もあった。読者はギルモア家の末弟マイケルが紡ぎ出したこの本を読んで、そのことを理解し、悲しむことができる。しかし私たちは当然のように、本書中ではほとんど置き去りにされた殺された者たちにもまた歴史があることもまた、理解しているし、「想像することができる」。死刑という、ある一人の人間に対する国家暴力の行使を是認し、それに加担するシステムは、罪人が犯したことに対する贖いとしては最上級の代価だが、果たしてそれでいいのだろうかということを考えなくてはいけない。先天的殺人者などいない。全ては環境によって作られる。ならば、すべての人間が殺人者になる可能性を秘めている。被害者遺族の応報感情の達成を願う気持ちを否定するものではないが、「殺人」システムとしての死刑を黙認している責任というものは現に存在するだろう。あなたも死刑に反対すべきだとは言わないが、少なくとも自らも加担者であるということは理解すべきなのかもしれない。