「猫泥棒と木曜日のキッチン」橋本紡/新潮社

猫泥棒と木曜日のキッチン (新潮文庫)

猫泥棒と木曜日のキッチン (新潮文庫)

★★
かなり甘めに。「流れ星が消えないうちに」を読んでうんざりしたのを覚えていながら、いやーな予感を覚えたことをかなり意識していながら、それでもなお買ってしまった自分は多分マゾなんだと思う。いや、マゾなんだけれど。
これは中高生向けなんだよな、と思いながら読んでたが、最後までそんな印象。レンジに合わなかったんだろう。でも要素としては悪くないなとは思った。主人公のみずきが、猫の死骸を見つけては庭先に埋めているところとか、猫がよく死ぬ理由を知って、猫泥棒を敢行するところとか。村上春樹っぽいと言えばそれまでではあるものの、作中の事件としては面白い。あと、お母さんが家出をして、幼い弟と家に二人取り残されているのにもかかわらず、気を張って強く生きようとしているところも。
ただし、文体と構成がいただけない。極端なまでに主観のみで構成された語りを、みずきとその友人の健一の二人の視点から交互に語らせているが、これに最後までなじめず。「流れ星〜」も確かそんな構成だったけれども、必然性があまり感じられないので退屈で仕方がなかった。結局は好みに合わないという問題に収斂するのであんまり書いても仕方がないのだけれど。まあ難しいところではあるのだろう。
最初の50ページがあまりにもしんどいが、100ページ過ぎたあたりから少し面白くなる。オーラス手前まではいい調子になるが、オチがかなり弱いので読後感はすっきりしない。人によっては「生きるってこういうこともあるよねうんうん」って思うかもしれないけれど。
以下ちょっとネタバレ。
作中で、みずきと健一は結果的にセックスする。セックスすることを「寝た」と書いているせいで、すんごく淫靡な感じになっている気がするのは気のせいだろうか。おそらく、作者は直接的な表現を避けたかったのだろうと推察するが、「寝る」という迂遠な言葉を極度に内面化された語りの中からしぼりだしてしまったことで、逆に文章の流れからは浮き上がり、目立ってしまった。お前がエロ小説読みすぎなだけだろ!というならそうかもしれませんが。