「煙滅」ジョルジュ・ペレック/水声社

煙滅 (フィクションの楽しみ)

煙滅 (フィクションの楽しみ)

★★★☆
ある日突然に失踪したアッパー・ボン。だが、その理由は誰も知らなかった。彼らの友人たちはその「謎」を追求し、アッパー・ボンを見つけ出そうと奮闘する。次第に明らかになっていくのは登場人物たちの奇怪な人間関係と、あるものの「煙滅」だった。
で、い行の音を使用せずに日本語訳! って帯やらなんやらに書いてあるのはいいのか悪いのかというところ。訳文は「い行音の煙滅」について、くどいくらいに、あからさまにといっていくらいに、強調しているのだから、わざわざネタばれしなくてもいいじゃないかと思う。小説の醍醐味は再読による新た発見にもあるのだから。そしてまた、訳者による解説はすさまじいのだが、ある意味では解釈の強要であるように思う。なので、やっぱりこれは最初は頭を空っぽにして読むべきか。そうして解説を読んでまた頭から、とすると、この小説はもっと楽しめるのだろう。僕は一回しか読んでないけれど。
とはいえ、この訳は大変な労作である。トランスレーションとは何か、ということを含めて、解説に書いてあるとおり。言語間の移し替えは、表現と意味の変質を意味し、その両方のバランスをどうとるかというさじ加減によって、訳文というものが定まってくる。そういう意味で、通り一遍な訳文に慣れている人がこの小説を読むと驚きがあるかもしれない。翻訳小説読んでりゃ、苦労したんだろうなあ、という箇所ではあるが。