「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」桜庭一樹/角川書店

★★★
本作は富士見文庫→ハードカバー→角川文庫というように複雑に出版形態が推移しているようで、富士見があるのに角川文庫で出す意味あるのかよ? という疑問を持つ人もいるだろうが、角川文庫のスペースというのは本屋の文庫コーナーではかなり大きく、訴求力を考えると、僕みたいな「ちょっと興味があるんだけれど」という人間に手にとらせるには有効な戦略であるようには思う。
佐藤友哉みたいなこと書いてるなとは思うが、こちらの方が上手く書けている。良くも悪くも(僕が勝手に命名するところの)ラノベ文法の上に構築された小説という印象。藻屑や友彦の設定と話中の変化なんかはそれが顕著。
「実弾」と、それに対比されるところの「砂糖菓子」という対照的な比喩を設定して物語全体を引っ張ったのは、語りの弱さに繋がっている気がしないでもない。なぎさと藻屑が象徴する己が人生に対する態度というのは、それほど対照的ではないと思えたからなのだが。
読後にこの作品の感想を色々見ていたが、わりと昔に書かれたような感想だと、「この本は現代の文学作品に比肩するのに評価されないだろう、なぜならラノベだから!」というようなことが書かれていたのを見て、これを書いた人は今の桜庭一樹をどう思ってるんだろうなあとちょっと考えた。あと、これを読んで「人を選ぶから云々」と言っている人は痛々しい。そんな下らない選民意識は恥ずかしい。題材をとってみても、普通の話だろう。文もこの手にしては読みやすいのだし。
解説は要らないと思います。何が言いたいんだかさっぱり。ボヴァリー夫人を引用しだしたのには笑った。
藻屑は人魚ってオチなのかなと山登りのあたりまで思っていたのは秘密。あと、絶えず水をぐびぐびと飲むという設定は正直言って無理がありすぎ。作中ではラストできちんとその辺拾ってるけれども、僕としては消化不良の感が否めず。友彦の脱神性の過程もなんというか、それで済ませちゃうの?という感じか。拍子抜けした。