「レ・ミゼラブル」ヴィクトル・ユーゴー/岩波書店

レ・ミゼラブル〈1〉 (岩波文庫)

レ・ミゼラブル〈1〉 (岩波文庫)

全体としては★★★(物語だけなら★★★★★)
善い人間は必ず死に、愚物だけが生き残る話。
子どものころに読んだ記憶があったのだけれども、久々に読んでみたくなって岩波文庫4冊を購入。で、あまりの分厚さに辟易しながらも読み進めると、自分が読んだのは抄訳版だったことに気づく。だって、あまりにも社会とか歴史とかの説明が多くてしかもつまらないんだもの。トルストイの「戦争と平和」と比較しちゃうのはいけないのかもしれないが、あまりにも差が……。とは言え、ジャン・ヴァルジャンを巡る物語の部分はとてもよい。大河小説を書こうとして大失敗こいたけれど、肝心の物語部分は良かったので名作になったって感じ。正直なところ、抄訳版で十分だったなぁ。
テナルディエ一家とジャヴェルさんがすばらしい。ジャヴェルさんの覚醒シーンとジャン・ヴァルジャンのラストは思い出補正があるとは言え、泣ける。というかか、電車で読んでて泣いた(最近涙腺ゆるいらしいです)。マリユスとコゼットの馬鹿二名は若者ゆえの愚直さというか省みなさの体現とは言えども、ジャン・ヴァルジャンに感情移入している者としては承服しがたい……。
別の側面から見てみると、これはいったん社会の外へ出てしまうと、二度と戻ってこれない社会制度や通念についての話であり、犯罪者の改心や浄化という概念は存在しない。罪は永遠の穢れなのだ(マリユスを見れば明らか)。人間としてのとりうるべき姿というのはジャヴェルが体現したが、この落伍者を自動的に再起不能へと陥れる社会の非情さについては、よくよく考えるべきだろう(最近犯罪者の再犯等に際し、犯罪者は一生牢から出すなというような放言もネットではたまに見かけることであるし)。