「キナコタイフーン」(1) 渡辺ペコ/太田出版

キナコタイフーン 1 (1) (Fx COMICS)

キナコタイフーン 1 (1) (Fx COMICS)

エロFにだまされた……。というか、先がなんとなく読めてしまうのがイタイ。この人の持ち味が日常のふとした瞬間や、感情を切り取って見せることで、それが読者の日常や経験との近似値にあるから共感を呼ぶのだとするなら、この漫画はそれを活かせていない。
この漫画の中で(1巻読んだ限りで、ですが)キモになるんだろうな、という部分はキナコがイソベとAV研究(鑑賞会)したときにぽつりぽつりと交わす台詞。

「自分の中にあるものを形にして
 人様の前にさらすっていうのはさー やっぱ
 股じゃないにしてもどっか開いちゃってるんだろうし
 セックスはしなくても すごく個人的で大事なものを
 不特定多数の他人にさらしてるって意味では
 ちょっと近いモンがあるのかな」
「ウン」
「でもあたしたち
 それをやるって決めちゃったんだもんね」

まぁ、せっかくこの台詞まで持ってきても、そのあとがグダグダなんで意味薄いですが……。結局この漫画は業界体験記ではないので、「AV」という主人公にとっても読者にとっても、未知に近い世界に対する描写は単なる舞台効果でしかない。そういった意味では、ヤクザみたいなプロダクション出すよりは、もうちょっと違ったことを取り上げた方が良かったんじゃないの、と思う。せっかくSODクリエイトで取材したんだから擬似精子を卵白から作るとかそういう日常を描いてみるとか。まあ、この後キナコは周りのスタッフと分かり合えて成長して〜、みたいな話なんだろなぁ。うーん。AVを女性的に解釈してるからつまらねぇということでははないのだけれど、なんかなぁ。
てか、本当はAVの中のドラマなんて誰も見てないし、萌え記号と一緒で、シチュエーションとか「役」というのは性欲を喚起させる装置に過ぎないんだ、だから二人の関係性に流れを持たせても意味が薄いということが言いたかったのに脱線した。極論すりゃ、妹は可愛い、最近気になる、ということだけ説明しておけば、いきなり「やだお兄ちゃん、やめ……」から始まっても問題がない。まあ、男はエロシーンまで早送りするって作中で言及あるから、わかってんだろうけれど。AVには一家言あるつもりでいたけれど、真面目に語ろうとするとかなり気持ち悪いと思った。AVライターは偉いよね、本当に(しかもなんでもホメないといけないし)。
どうでもいい話だけれど、AVを描いた漫画だと、みこくのほまれの「まりあの夢に向かって第1歩」が面白いと思う。別にそれもリアリティとか日常性があるわけでもないけれど、なんか読んでて面白い(面白い理由を説明できるほど覚えてない)。男の脳に訴えるから? ただしエロ漫画です。