「囚人のジレンマ」リチャード・パワーズ/みすず書房

囚人のジレンマ

囚人のジレンマ

この作品は「舞踏会へ向かう三人の農夫」っぽい作品だけども、それほど硬派なストーリーではない。まぁ、「三農」が硬派かどうかというのは意見の分かれるところだと思いますが……、強いて言えば無骨と言ったところ?
ホブソン家というアメリカのとある一家をめぐる物語で、時代と視点を変えた三つの流れにおいて、ホブソン家の人間を描き出している。その中で、表紙のミッキーが関連してくるわけです。パワーズに限らず、この系統(ポモ)のアメリカ作家のすごいところというのは、個人史を世界史に結び付けて融合させるところではないかと。ある一家を俯瞰することで、世界史を見つめなおし、アメリカとは何か、世界とは何か、現在とはどういうものなのか、を捉えなおす物語。個人史に徹してしまって、閉塞気味な日本の小説とは様相が異なるなと個人的には感じてます(まぁ、この判断に準じない大きな作家も出てきているとは思いますけれど)。
囚人のジレンマ」はゲーム理論ですが、これが世界史レベルにおいて適用されている状態が現在である、というのがまあ大雑把な内容です。このジレンマ状態を脱する方法は示されるものの、実現は困難であろうという結論だったんじゃないかと思いますが、まあ将来は悲観するほどではないんじゃない?という流れ。