「眠れる美女」ロス・マクドナルド/早川書房

眠れる美女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

眠れる美女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

人間に歴史あり。重ねてきた年月の分だけ、その人物や家の背後には「過去」が横たわっている。「過去が現在に復讐する」とでも言えばいいのか、そのような悲劇に巻き込まれる形の「事件」をアーチャーは解決していく。

 車の通行はまだかなり少なく、未発見の国の境のように東方にそびえている山々が見える程度に大気が澄んでいる。しばらく、得意の高速道白昼夢におちこんでいった。私は、何物にも縛られず行動が自由で、初めての土地に出かけてゆくほどに若く、行き着けば人のやらない新しいことがやれるほどにりこうな人間になった。
 サンタ・モニカに着くと、その幻想が一瞬にして消えた。そこはサン・ディエゴからヴェンチュラまで延びているメガロポリスの一部に過ぎず、自分は無限都市の一市民に過ぎない。