「劇場」サマセット・モーム/新潮社

劇場 (新潮文庫)

劇場 (新潮文庫)

なんか改版版が出ていたので購入してみた。オビがくっついていたが、それによると映画化するとのことで、今回の改版もそれに合わせたことみたい。
英国屈指の名女優であるジュリアが主人公なのだが、こいつの思考回路がとてつもないあばずれなので、読みながら辟易し続け、三回くらい途中放棄しようかと思ったほどである。超絶美形で評判の夫から加齢臭がしたから愛情が冷めた。私に話しかけてきたのだから、セックスが目当てかと思ったら自分の女にやるためのサインが目当てだなんて、なんて失礼なやつだ、とブチ切れ。ハンサムのするレイプはよいレイプ。夫とするのは死んでも御免。女優というものが身勝手なものである……、というわけではなくて、ジュリアが何者にも(経済的にも観念的にも)とらわれない自立した女である、ということの証左なんだろう(たぶん)。この話がぐっとよくなってくるのは後半残り100ページといったところで、女の嫉妬と母親としての戸惑い、演技というものに対しての姿勢。この3つが混ざり合い、一人の女を創り上げている。

「誰だって、自分のしたいことをするのに理由もへちまもいらないんだわ」彼女はつくづくと考えるのだった。「ただ、言い訳わけがたてばいいのよ」

「あたしはひとの気を狂わせるような美貌でもって売り出したわけじゃない。でもただひとつ誰ひとりあたしに否定しなかったことは、個性なんだ。あたしが百のちがった役割を百のちがった方法で演ることができるからといって、あたし自身の個性がないときめつけるのは、バカげた話だ。あたしがすばらしくりっぱな女優だからこそ、それができるんじゃないの」