「青い花」志村貴子/大田出版

青い花 1巻 (F×COMICS)

青い花 1巻 (F×COMICS)

長いし適当なこと書いたから読みたい人だけどうぞ。
志村貴子が描く鎌倉を舞台とした「ガール・ミーツ・ガール」ストーリーという帯文句だが、間違っても「マリみて」のようなものだと思ってはいけない*1。確かにこれはお嬢様学校と進学女子高を舞台にした百合モノではあるが、描いている人間が志村貴子なのだから、ただの百合モノで終わるはずがない。きっと、緩急をつけながら自在に変化させる人間関係の中で、恋をする「女の子」の感情の動きを細やかに描き出してくれるはずなのだ。と、こうまで書くと、僕というやつはよっぽど志村貴子という漫画家に惚れ込んでいるのだろうと思われるだろうが、それはまったくの事実で、彼女が描いているというだけで、僕にとっては事件なのだ。
奥平あきらと万城目ふみの二人は10年の歳月を超えて、再び巡り合った。というところから、話は動き出す。目と頭が慣れるまでは登場人物紹介のページに指を入れながら、頻繁に見返さなくてはいけなかったのは、わりといつものご愛嬌。そんな点など大したことではないと言わせるくらいに、この漫画は読んでいてドキドキさせられる。ドキドキというか、興奮を伴った好奇心を呼び起こされるのだ*2。それというのも、一巻における中心であるふみの感情の波を丁寧かつ適切に、違和感なく描いているからで、その相手となる杉本恭己の存在の魅力と彼女にまつわる関係性をもまた十分伝えきっているから。ゆっくりと流れるような間の表現、つまり今までの作品で見られたような志村貴子の持ち味もまた、感情の機微を掘り起こすことに役立っている。「何一つ過不足のない砂糖菓子のような世界」の中で、これからあきらとふみがどのように変化していくのか。とても楽しみ。個人的にはふみは今は太陽に目がくらんでいるようなもので、そのうち「あるべき関係」へと話が動き出すんだろうなと思う。まっとうなくらいに志村貴子の描いた漫画ですが、「放浪息子」と似たような関係性を下敷きにしていながら、「敷居の住人」や「ラヴ・バズ」、「どうにかなる日々」の系統に属する作品なので、「放浪息子」オンリーの人は慎重に。
僕が志村貴子をとてもすごいと思うのは、言葉と間の表現、そのためのコマの使い方だ。一話のラスト、「10年の月日をかるくとびこえた」という1フレーズはあまりにも印象的だが、この台詞を伴った大きな文字ゴマを配置するために、前頁最終コマであきらに台詞を言わせて頁を切り替え、頁の三分の一を使った一コマ目でふみの泣き顔と「その一言は」と描き、二コマ目でただ文字を置く。書いてるこっちがわかりにくいなあと思うので申し訳ないのだけれども、このセンスははっきり言ってすごいという他ない。エッジの利いた言葉で、まさにその人物の気持ちや関係を一瞬で表す、というのは本当にすごいことで、素晴らしいことなのだ。
それはそうと、ふみがとっても可愛いので青春を遠くに置いてきた僕でさえ、すっげードキドキしながら感情移入して読んでしまった。あとは恭己が「敷居」の兼田や黒髪みどりちゃんに見えた。とある一瞬だけ。

*1:もっとも僕の「マリみて」理解は11巻ほどで止まっているが。そういえば人にやった本を横から奪ったやついたよな、もうどうでもいいけど

*2:まあ百合が一時期に流行ったときにみんなが持ったような感情でしょう