部屋に甘い匂いがすると思っていた

なんでだろうと考えていた。部屋に転がっている氷結果汁のせいだろうか。それとも焼酎が気化しているのだろうか。でもいいちこ麦焼酎。なんでだろう、なんでだろう、と考えているうちに部屋の片隅に目が留まり、はたと気づく。先日の葬式でいただいた、グレープフルーツがそのまま転がっているじゃないか、と。でも食べる気はしない。もったいないかもしれないが捨てると思う。理由は特にない。理由がないのにものを捨てるとき、僕はコンビニでバイトしていたときのことを思い出す。あれよりかはましだよね、と言い聞かせてみる。でもそれはズレた答えなので納得できない。でも僕は一応、もったいないということ、無駄を生み出したということ、について思いをいたしたのだという大きな満足感を得て、堂々たる態度で熟れた果実を捨てることができるようになる。もともと僕はもったいないだなんて、意識の上では感じていないのだ。食べ物を捨てるのはもったいない、というすりこみから想起される考えに言い訳を与えるために、考えてみせただけだ。そんなもんだよ、僕は。もったいないと思った! でも仕方がない! なんて思考を挟まずに、邪魔だから捨てるわ、って言えれば最高だね。糞くだらない理由付けとかどうでもいいんで。