「冷血」トルーマン・カポーティ/新潮社文庫

冷血 (新潮文庫 赤 95C)

冷血 (新潮文庫 赤 95C)

ノンフィクション・ノベルという看板を背負った小説であるが、ノンフィクションであることと、ノベルであることは矛盾している(と言わざるを得ない)。このことは訳者が解説でも述べているとおりで、ノンフィクションとは事実であるということを意味するが、それをノベルの形式に落とし込んだとたんに、ノンフィクション性は失われるのである。ディックとペリーという二人の男の内部に渦巻く心情はある程度までは事実だろうが、それ以上は想像でしかないはずだからだ。特に作者はペリーに同情し、人間性を見出そうとしているために、その感がよりいっそう強まる。小説の形式としての「ノンフィクション・ノベル」は、ノンフィクションであろうと心がける(客観性を重視する)小説なのだろう。まあ、その客観性は、作者によって作られているわけだし、取材ノートの中から取捨選択を行っているのも作者の主観によっているわけだから、結局のところ「現実の事件をネタにした」としか言えない気がするのが寂しいところ。
こんなこと書くとつまらんのじゃないか、と思われるだろうけれど、そんなことは全くなくて、ノンフィクション・ノベルの装う「作者の不在性」が淡々と記述されるディックとペリーの生い立ちや感情の動きをリアルに表現しているのだから、この形式をとったことは正解であると言える。pp.401、クラター氏を殺すときのペリーの感情の揺れ動きに関する描写は圧巻。