メタフィクションの傑作

黒い時計の旅 (白水uブックス)

黒い時計の旅 (白水uブックス)

よーやく読み終えた。メタメタと日ごろ口走っている輩はこの本を読むべきでありましょうし、読んでいるのが教養というものでしょう。
主人公であるバニング・ジェーンライトが属するドイツがWWIIに勝利した世界とわれわれが知っているドイツが敗北しアメリカが派遣を打ち立てた世界、前者こそが黒い時間の世界であり暴力に包まれた二十世紀である。エリクソンが歴史という概念をどうとらえているかが漠然としていて(というか、学術的なそれではない)、当初はしっくりこなかったけれども、まあそれはそれ。
悪魔のような男の中に人間性を発見したとき、人はそれを受け入れるのか否か、という問題が浮上する。どんな殺人犯だって、愛する人間がいる可能性があり、老いさらばえて惨めな姿になりさがり同情を掻き立てる場合がある。そうしたとき、人は復讐心をそのままに相対することができるのか、復讐を遂行できるのか、自分の中の優しさ哀れみに負けやしないのか、そういったことも考えさせられる。バニングは勝ってはいないが、負けてもいない。
適当にこんな感じ。カーラってバニングの語りの中に出てきたのか覚えてないんですが。再読せなんな。