「停電の夜に」ジュンパ・ラヒリ/新潮社

停電の夜に
ジュンパ ラヒリ Jhumpa Lahiri 小川 高義
新潮社 2003-02
なんだろーな難しいな。ラヒリが女性だって知らなくてもすぐにわかるような「匂い」が漂う内容が多い、というとイメージしやすいかもしれない(けしてけなしているわけではない)。読んでいる最中の印象は日本人で言い換えると江国香織みたいなのに、読み終えたときはどこか違うなというものに変わっている(そこが底力の差なんだろうけれど)。表題作の「停電の夜に」なんかとくにそうで、最後まで読まないと本当に見分けがつかなさそうな感じがする。まあ江国女史の小説は数年来読んでいないのだけれど……。短編集というものの性質上、あまり好きになれない作品があるのは仕方のないことかもしれない。
「ピルザダさんが食事に来たころ」は良かったです。主人公の少女にとっては希薄すぎて実感することのできないルーツを人生の中に投影しているピルザダという人物を、肩入れしすぎるわけでもなく、かといって離れすぎるわけでもなく、ちょうどいい間合いで描けているんじゃないかと思う。移民の持つ特殊性と書くとあまりに紋切り型すぎて閉口するのだが、「故郷」と「現在地」が強制的に分断されてしまっている人の書く物語の持つ力というのが上手く映し込まれていたんじゃないかな、と。
あとは「病気の通訳」「三度目で最後の大陸」も良かった。「神の恵みの家」も面白い。表題作と「セクシー」はいかにも女性の書く小説だなという感じで、日本にもこのレベルの女性作家ならたくさんいるだろうと思った。まあ、O・ヘンリー賞などの色々な賞を貰った本だけに、そんなレベルにとどまらないものであることを期待していたからこういう風なことを書いてしまうのですが。
少し前に出たクレストブックスの新刊「その名にちなんで」はあらすじの限りでは「ピルザダさん〜」のように作者のルーツが反映されていそうで、相当に良さそうな感じなので期待期待。つーか、ラヒリを移民とかそういうキーワードで切るのは凡庸すぎるだろうなあ……。我ながらそう思う。まあ安易に走った結果か。