あげられるものはもうなんにもないのだよ、レティシャ。
- 作者: ロス・マクドナルド,小笠原豊樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1976/09/01
- メディア: 文庫
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リュウ・アーチャーは達観しすぎていて、夢だとか希望だとかというそういった感情たちをどこかに置き去りにしてきてしまったような、そんな気さえさせる探偵だった。フィリップ・マーロウの朗々とした明るさとは対照的だなと思う。アーチャーは諦観をもって人間を見つめ、事実を受け容れて手際よく(よくないかもしれないけれど)整理していく。「ある種の人間は、自分がこの世に生まれてきた罪をつぐなうだけで生涯を費やしてしまうものである」というのは一例だが、こういった諦めが随所に差し込まれ、作中に出てくる人々の悲しみと影が浮き彫りになっていく過程は実に素晴らしかった。