「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ/早川書房

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫)

★★★
うーん。「日の名残り」よりは面白かったかなぁ。五十ページくらい読んで、すぐに斜め読みモードになったので、いつも以上に不正確な読みと記憶なのはご容赦ください。
これをミステリーと読むのは明らかな間違いだとすぐに気づくはずだが、一応どんでん返しはあったりする。そこには加害者の良心とでも言うべき、帝国主義国家に属していた人間による道徳精神の挫折が絡んでいるのでわりと興味深く読めたし面白かったと思う。けれども、ピースが揃った後も判然としないのは、クリストファー自身が探偵となった目的であるところの事件が、上海租界やイギリス社交界の中で非常に重要視されていること。○の犠牲による○○・○○の影響だとしても不可解。
アキラが「この世界がいいところではないとわかったとき」に子どもを助けてあげたいのが「親」で、それというのは世界の瓦解に直面した我が子に対し手を差し伸べることだ、と半ば独白したシーンは良かったと思う。ちゃんとその後の伏線になってるし。
あとは、主人公(クリストファー)の感情が暴発してしまうところが唐突であることと、そのシーン自体を語る主体であるクリストファー自身が非常に冷静に描写するところが馴染めなかったな。ずっと捜し求めていたものが絡んでいるから……、という風に受け取ったけれども。
古川日出男の解説はちょっと……。